給与計算代行とは
給与計算代行サービスとは、毎月々の従業員に対する給与支給額を計算する業務、つまり給与計算業務をアウトソースするサービスです。まず、そもそも給与計算業務には、どのような業務があるのかをご案内します。給与計算業務は、次の2つに大別できます。
- 毎月の業務
- 特定の時期に行う業務
① 毎月の業務
毎月のルーティーンとして、どのような業務が発生するのかを、順を追ってご案内します。
① 労働時間の計算
出勤日数、勤務時間、残業時間などをタイムカードなどの記録から集計します。就業規則で外勤手当、出張手当などが定められている場合には、その時間を分けて集計します。未払残業代をめぐる労使トラブルも多く見られるなか、労働時間の適切な管理と運用が肝要です。
② 支給額の計算
基本給や諸手当、時間外手当などを計算し、総支給額を計算します。昇給のタイミングでは、前月と基本給が異なる可能性があるので、いつもに増して注意が必要です。
③ 控除額の計算
社会保険料や税額などを計算、毎月の総支給額から、これらを控除して手取額を計算します。
④ 給与の支払
計算した結果をもとに、各従業員に支払うべき給与額を明記した給与明細書を作成して交付します。給与明細書に記載した手取額を、従業員個々の預金口座に振込みすることが一般的です。現金手渡しは、税務調査でもトラブルになりやすいことから、よほどの必要性がない場合には避けましょう。
② 特定の時期に行う業務
毎月の給与計算業務のほかにも、給与計算に関連する業務は多く存在し、給与計算業務も担当する経理担当者の負担が過度となる場合も少なくありません。特定の時期に集中する傾向があり、経理担当者の過度な残業につながるリスクが高い業務をご案内します。
① 入職
従業員が入職する場合、新入社員となる従業員個々の状況を把握する必要があります。とくに、通勤・住居・資格手当がこれにあたり、住民税などは、従業員ごとに額が異なります。もちろん、労働基準法に沿った雇用契約書や雇用通知書の交付を欠かすことはできません。
② 賞与
企業によって回数や時期が異なりますが、賞与計算も給与計算業務のひとつです。人事評価制度などをもとに査定し、賞与額面を計算したうえで控除額を計算する必要があります。
③ 年末調整
その年最後の給与支払の際に、毎月の給与から事前に徴収した所得税と、その年納付すべき税額とを比較、過不足額の精算を行う業務をいいます。ほとんどの企業は12月に行います。
④ 退職
従業員が退職する場合、最終勤務日の確認とともに、業務引継ぎの期間を考慮しながら、有給休暇の精算を行います。最終勤務日が確定すれば、これに応じて、社会保険の退職手続、退職時の源泉徴収票や離職票の発行手続などにも対応する必要があります。また、退職金制度があれば、これをもとに退職金額面を計算し、控除すべき所得税や住民税を計算する必要もあります。もちろん、雇用契約書などと同様に、のちの労使トラブルを予防する意味合いからも、退職する従業員からは退職届を確実に受け取る必要があります。
給与計算業務のポイント
給与計算業務は、法令を大前提とした企業の給与規程に基づいて行われます。当然ですが、法令に反するような企業の給与規程は違法でしかなく、違法な状態は、新規の人材採用や既存の人材定着にも悪影響があることから、違法な状態に陥っていないか、細心の注意のもと、定期的なメンテナンスが望まれます。給与計算業務に関わる法令は、主に次のとおりです。
① 労働基準法
労働基準法とは、労働条件の最低基準を定める法令です。給与に関する重要な定めとして、労働基準法24条「賃金支払五原則」があげられます。
労働基準法24条では、賃金は、① 通貨で、② 直接労働者に、③ その全額を、④ 毎月1回以上、⑤一定の期日を定めて、支払わなければならないとされています。つまり、年俸制の企業であっても12分割にして毎月支払う必要があります。ただし、「① 通貨で、② 直接労働者に」に関しては、「労働者の指定する本人名義の口座に、所定の期日に賃金全額を引き出せること」を条件に口座振り込みができます。また、「③ その全額を」に関しても、他の法令の定めや労働組合等での合意があれば、控除した金額での支払でも問題ありません。他方とくに、「③ その全額を」に反する違法な状態に陥ってしまうことが多く、この代表的な例が、賃金の端数処理です。このような違法な状態は、人材と企業との信頼関係を損なうだけではなく、要らぬ労使トラブルを生む可能性もあることから、「人件費はコストであり、コストは削減することが望ましい」という思想のもとに行われる不用意な対応は避けるべきです。
② 所得税法
所得税法とは、個人の所得に対する税金について定める法令です。給与計算業務に関わる部分では、使用者が労働者に対する源泉徴収義務を負っており、給与や報酬を支払う場合、その額に応じた所得税を差し引く必要があります。また、その差し引いた所得税は、原則として、実際に給与を支払った月の翌月10日までに国に納付する義務を負います。あとあと控除する所得税に誤りがあったなど、給与計算業務の誤りは、人材に対する企業の信頼を損なう原因ともなります。とくに所得税の控除間違いには注意が必要です。
③ 最低賃金法
最低賃金法とは、使用者が労働者に対して支払う給与の最低額を定める法令です。都道府県ごとに最低賃金が定められているため、各企業はこれを下回ることのないよう、雇用契約を締結し、実際に給与を支払う必要があります。毎年のように最低賃金の上昇が続くなか、うっかり最低賃金に満たない違法な給与を支払うことのないよう、十分な注意が必要です。
④ 36協定
36協定とは、労働基準法36条に基づく労使協定の通称です。労働基準法には、法定労働時間が定められています。労働時間は、原則として1日8時間、週40時間以内と定められています。法定労働時間を超えて労働者に時間外労働をさせる場合、36協定の締結と所轄労働基準監督署長への届出が必要です。忽ち罰則がないことを理由に、実務として、この手続が適切に行われない場合もあります。一方で、人材を雇用する企業の責任としてあるべき手続に瑕疵がないよう、注意したいところではあります。
給与計算代行はこのような方におすすめ
毎月決まった時期に完了すべき給与計算業務、つまり「待ったなし」の業務には、事務的な負担が多く含まれます。ここでは、ぜひ給与計算代行サービスの利用をおすすめしたい、具体的なお悩みの事例をご案内します。
① 経理担当者の負担が大きい為に残業時間が多くなり、退職リスクが心配である
経理担当者の過度な残業が常態化しており、その負担の大きさからミスも増える、現に経理担当者の退職リスクが高まっているなど、のお悩みはないでしょうか。
給与計算業務は、月末や月初など、企業ごとに毎月決められた時期や期間内に完了する必要があります。そのため、祝日の多い月など、時期によっては業務量が一時的に大きく変動する場合があります。給与計算業務のほかにも業務を抱えている経理担当者の負担は、ますます腫れ上がる一方です。
特定の時期や期間に業務が集中する給与計算業務をアウトソースすれば、割増のつく残業手当というコストや、過度な負担で経理担当者が退職また最初から採用して教育するためのコストなど、多岐に及ぶコストの削減や、退職リスクを含む労務リスクの軽減にもつながります。
② 給与計算のミスが怖い、ミスが多くなっている
役員報酬や従業員給与などの情報を社内で共有したくないという理由から、経営者自らが給与計算業務をしているがミスが怖い、経理担当者が高齢でミスが目立つという場合にも、給与計算代行サービスの利用を検討してください。
給与計算業務は、関連する法令が多く、これらの法令は頻繁に改正されます。そもそも、従業員ごとに扶養家族の有無、勤続年数、基本給などが異なることから、とくに従業員が増えて働き方が多様化するほど、その計算は自ずと複雑となります。長年にわたり給与計算業務を担当しているベテラン従業員であっても、給与計算業務の専業であることは稀です。
また、給与計算業務の専門家ではないことから、給与計算のミスを限りなくゼロに近づけることは極めて困難であるといえます。給与計算のミスは、法令や雇用契約の違反にもつながります。また、人材に対する企業の信用を大きく損なうリスクもあります。煩雑でミスの温床になりがちな給与計算業務を、専門家にアウトソースすれば、信用問題にも発展しかねないミスが減り、法令・契約違反を防ぎ、これらのリスクを軽減できます。
③ 従業員の個人情報を社内で共有することに問題がある
第三者である経理担当者が、経営者を含む従業員個々の個人情報を把握していることに不安や問題をお感じになられたことはないでしょうか。数十名程度の従業員を雇用する企業の給与計算であっても、その経営者自らがこれを行う、という場合も稀とはいえません。もちろん、経営者自らの場合もあれば、経営者の身内の場合もあります。
社内の第三者への情報共有が、少なからずリスクになると感じる場合が多いのではないでしょうか。給与計算業務には、従業員の基本給や評価という情報のほか、従業員の被扶養者の情報など個人情報が必要です。給与計算業務に対応する経理担当者にとって必要な情報ではあるものの、同僚が、自らの個人情報を知っていることに抵抗を感じる従業員が存在しないとはいいきれません。
もちろん、人には口がついています。これは内緒だけども、社長の役員報酬は…、従業員Aさんの給与は…、賞与は従業員Bさんよりも…、従業員Cさんの家庭は…など、社内の給与計算業務に対応する従業員が、その業務に必要となる情報を知ることが、思わぬ社内秩序の混乱を招くこともしばしば聞かれるお話です。給与計算代行サービスを利用すれば、このようなあるまじき問題やリスクも回避することができます。
給与計算代行を導入すると実現可能になること
給与計算代行サービスに期待できる効果をご案内します。
① 業務が平準化される
給与計算業務をアウトソースすることで、経理担当者が、特定の時期や期間に集中し、混雑しがちな給与計算業務から解放されます。これによって、経理担当者の業務が平準化され、そこで生まれた経理担当者の余剰時間があれば、これを他の創造的な業務にあてることもできます。経理担当者に、そもそも無理な働き方があったならば、給与計算業務のアウトソースを通じて、これが正常化される点だけでも、それは大きな成果であるといえます。
② あるまじきミスが減る
給与計算業務には関連する法令が多く、かつ、正確に給与計算業務を進めるために多くの情報を把握する必要があります。特定の時期や期間に対応が集中することからも、給与計算業務はミスの温床になりがちです。もちろん、ミスが発生すれば、それを修正する事後対応が必要となり、業務集中のなか事後対応を急ぎ過ぎると、ミスがミスを呼ぶリスクもあります。
人材と企業との信頼関係に悪影響を与えるミスは回避したいところですが、給与計算業務の性格からは、ミスが常に隣り合っているといわざるを得ません。給与計算業務に対する多大な時間とコスト、ミスを復旧するための負担やコストなどを考えると、経理担当者の負担はもちろんのこと、ミスの影響を含む企業のコストやリスクは小さいものではありません。これらのコストやリスクが、専門家による給与計算代行サービスで大きく和らぐとすれば、企業にとってのコストパフォーマンスは極めて大きいといえるのではないでしょうか。
③ リスクとなる情報を社内で扱わない
経営者などの役員を含む従業員個々の個人情報や、給与・賞与の金額は、給与計算業務に欠かせない情報です。給与計算業務を社内で対応する場合、経理担当者はこれらの情報を知る必要があります。しかし、意図せず、これらの情報を漏らすリスクもあります。このリスクは、社内で給与計算業務をするから発生するリスクであって、外部の専門家が対応する給与計算代行サービスを利用すれば、このようなリスクから解放、少なくともそれは軽減されます。
そもそも、どこから情報が漏れたのかという社内の犯人捜しや、他の従業員と比較して自らの給与や賞与に不満があるなど、社内不調和の原因ともなりかねない給与計算業務は、社内で対応せずにアウトソースするという判断もあり得るのではないでしょうか。
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