「経営者たるもの、会社の数字くらい見られて当然だろう?」
読者の中には、『経営者たるもの、会社の数字くらい見られて当然だろう』と思われる方もいらっしゃるかもしれません。でも、日々の業務に追われ、複雑な帳簿とにらめっこする時間はなかなか取れないのが実情ではないでしょうか。
あるいは、「経理は税理士に任せているから大丈夫」と安心していませんか?もちろん、正確な記帳や税務申告は私たち税理士の重要な仕事です。しかし、本当に会社の未来を切り開くためには、経営者ご自身が数字の「意味」を理解し、活用できる力が不可欠です。
これまで多くの中堅・中小企業の経営を数字の面からサポートしてきました経験から、数字に強い経営者ほど、時代の変化に対応し、持続的に成長していることを肌で感じています。
このコラムでは、多忙な中堅・中小企業の経営者の皆さまが「経営者が優先して確認すべき重要指標」経営指標を厳選し、その意味、計算方法、そして何より「どう経営に活かすか」を実践的に、かつ丁寧に解説します。
【監修:税理士・中小企業診断士 前田 直樹】
目次
- 1.なぜ経営者は「数字」に強くならなければいけないのか?
- 2.経営指標とは?会社の状態を客観的に示す「健康診断書」
- 3.これだけは押さえたい!会社の状況がわかる最重要の経営指標
- 4.どこを見ればわかる?財務諸表を使った指標の計算と分析のポイント
- 5.分析から改善へ|見つけた課題を経営に活かす方法
- 6.経営指標を会社の成長に向けた「羅針盤」にしよう
なぜ経営者は「数字」に強くならなければいけないのか?
「売上が上がっているから大丈夫」「感覚的に経営できている」
もしかしたら、あなたはそう感じているかもしれません。しかし、数字に目を背けていると、気づかないうちに会社は危機に瀕している可能性があります。
なぜ経営者が数字に強くならなければならないのか?それは、会社の「今」を正確に把握し、「未来」を予測し、そして「成長」を加速させるために、数字が唯一の客観的な情報源だからです。
会社の健康状態を把握するため
皆さまが健康診断を受けるように、会社にも定期的な「健康診断」が必要です。その診断結果こそが「数字」です。売上が上がっていても利益が出ていなければ赤字かもしれませんし、利益が出ていても手元の現金がなければ資金繰りがショートするリスクもあります。数字は、単なる記号の羅列ではなく、会社の生命活動そのものを表しているのです。
正しい意思決定のため
新規事業への投資、従業員の採用、経費削減、価格改定…経営には日々、重要な意思決定が伴います。これらの判断を「なんとなく」や「勘」に頼っていては、大きな失敗につながりかねません。数字に基づいた客観的な判断こそが、リスクを最小限に抑え、成功確率を高める道筋を示してくれます。
銀行融資や資金調達を成功させるため
事業を拡大するためには、銀行からの融資や新たな出資が必要になることがあります。その際、銀行や投資家が真っ先に確認するのが、あなたの会社の財務状況、つまり「数字」です。数字が会社の健全性や成長性を明確に示せなければ、必要な資金を調達することはできません。
目標達成と課題発見のため
「売上10億円達成!」「業界No.1を目指す!」といった目標を掲げるだけでは絵に描いた餅です。目標達成に向けた具体的な進捗を測り、どこに課題があるのかを発見するには、数字による「見える化」が不可欠です。数字は、あなたの目標達成を後押しする最強のツールなのです。
このように数字は、過去の記録であると同時に、未来を照らす羅針盤となり得るのです。
経営指標とは?会社の状態を客観的に示す「健康診断書」
経営指標とは、会社の経営状態を数値化し、客観的に分析するための物差しです。貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)などの財務諸表から必要な数字をピックアップし、特定の計算式に当てはめることで算出されます。
先ほど会社の「健康診断書」に例えましたが、この健康診断書には、会社の様々な側面から状態を評価するための指標が書かれています。大きく分けて、以下の4つの視点から会社の健康状態を測ることができます。
- 収益性:会社がどれだけ効率よく利益を生み出しているか
- 安全性:会社の財務基盤がどれだけ安定しているか(財務的安定性)
- 効率性:会社の資産や資本をどれだけ効率的に活用しているか
- 成長性:会社が過去と比較してどれだけ成長しているか
これらの指標を総合的に見ることで、会社の強みと弱みを特定し、具体的な経営改善策を立てることが可能になります。
これだけは押さえたい!会社の状況がわかる最重要の経営指標
数ある経営指標の中から、中堅・中小企業の経営者が「まずここから見るべき」最重要指標を厳選してご紹介します。これらの指標を理解し、活用するだけでも、あなたの経営判断は大きく変わるはずです。
3-1. 売上高(売上高成長率)
最も基本的な指標ですが、経営のスタートラインであり、会社の規模と活動量を示します。売上高は重要ですが、単に売上を追いかけるだけでは危険です。後述する「粗利率」や「利益」とのバランスが非常に重要になります。
- 意味合い:一定期間内に、商品やサービスを提供して得られた金額の合計です。
- 計算式:特別な計算式はありません。損益計算書の「売上高」の項目を見ます。
- 活用法:
- 目標達成度合いの確認:設定した売上目標に対して、どれだけ達成できたかを確認します。
- 成長性の評価:前年や前月と比較し、売上高がどれだけ増減しているか(売上高成長率)を確認することで、会社の成長スピードを測れます。
- 売上高成長率の計算式:(当期の売上高 − 前期の売上高) ÷ 前期の売上高 × 100(%)
3-2. 粗利率(売上総利益率)
売上から原価を引いた「粗利」が、どれだけ効率よく生み出されているかを示す指標です。この数値が低いと、どんなに売上を上げても利益が出にくくなります。
- 意味合い:売上高に対して、どれだけの粗利益(売上高-売上原価)があるかを示します。高ければ高いほど、収益性が高いと言えます。
- 計算式:
- 粗利率 = 粗利益 ÷ 売上高 × 100(%)
- (粗利益 = 売上高 − 売上原価)
- 目安:業種によって大きく異なります。例えば、ITサービス業は高く、飲食業や小売業は比較的低い傾向にあります。
- 活用法:
- 価格設定の適正化:粗利率が低い場合、価格設定が安すぎる、あるいは原価が高すぎる可能性があります。
- コスト削減:仕入れ値の見直し、製造プロセスの改善など、原価削減のヒントになります。
3-3. 損益分岐点比率
「赤字にならないためには、最低限どれくらいの売上が必要か」を教えてくれる指標です。この比率を把握することで、無理のない売上目標設定や、費用削減の具体的なターゲットが見えてきます。変動費と固定費の分類が難しいと感じる方もいらっしゃいますが、正確な分類と損益分岐点の算出が難しければ、具体的な経営改善アドバイスの外部に求めることも手段の一つとなります。
- 意味合い:売上高がどれくらいの水準になれば、費用を賄って利益がゼロになるかを示します。この比率が低いほど、経営が安定していると言えます。
- 計算式:
損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 売上高 × 100(%)
(損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1 − 変動費率))
(変動費率 = 変動費 ÷ 売上高) - 固定費:売上に関わらず発生する費用(家賃、減価償却費、人件費の一部など)
- 変動費:売上に応じて変動する費用(仕入れ原価、材料費、外注費など)
- 目安:一般的に、70〜80%以下が望ましいとされます。
- 活用法:
- 目標設定:最低限達成すべき売上目標を具体的に設定できます。
- コスト構造の見直し:比率が高い場合、固定費が高すぎる、または変動費率が高い可能性があります。
- リスク管理:売上が減少した場合でも、どこまで耐えられるかの指標になります。
3-4. 自己資本比率
会社の財務体質の健全性、つまり「倒産しにくさ」を示す非常に重要な指標です。この数値が低いと、予期せぬ事態(コロナ禍のような経済変動など)に対応しきれず、資金繰りが厳しくなるリスクが高まります。財務状況を詳細に分析し、自己資本比率を健全に保つための具体的な方法(例えば、内部留保の積み増し、不要な資産の売却など)を理解することが大切になります。
- 意味合い:総資産(会社全体の財産)のうち、返済の必要がない自己資本(資本金や利益の蓄積)が占める割合です。高いほど、返済義務のある負債に依存しておらず、財務的に安定していると言えます。
- 計算式:自己資本比率 = 自己資本 ÷ 総資産 × 100(%)
- 目安:業種や規模によって異なりますが、30%以上あれば比較的健全、50%以上あれば非常に優良とされます。マイナスは債務超過となっている状態です。
- 活用法:
- 会社の安定性評価:外部からの借入れに頼りすぎず、自力で経営を続けられる体力を測ります。
- 銀行融資の判断材料:銀行は融資の際、この比率を重視します。高いほど融資を受けやすくなります。
- 資金繰り改善:無駄な負債を抱えていないか、資産を効率的に使えているかを判断できます。
3-5. 労働分配率
会社が生み出した粗利益が、どれだけ人件費に分配されているかを示す指標です。人件費は会社にとって最大のコストの一つですが、同時に成長の源でもあります。労働分配率を見ることで、単なる人件費の削減だけでなく、生産性向上や従業員エンゲージメントの向上といった、より本質的な改善策を検討できます。
- 意味合い:粗利益(売上総利益)に占める人件費の割合です。従業員への分配状況や、人件費の適正さを測る目安となります。 [cite
- 計算式:労働分配率 = 人件費 ÷ 粗利益 × 100(%) (人件費:給料、賞与、法定福利費など)
- 目安:業種や経営戦略によって大きく異なりますが、40〜60%が一般的と言われます。高すぎると利益を圧迫し、低すぎると従業員のモチベーション低下に繋がりかねません。
- 活用法:
- 人件費の適正評価:人件費が高すぎる場合、人員配置の見直しや業務効率化の検討が必要かもしれません。
- 生産性向上:比率が高い場合、従業員一人当たりの生産性を向上させることで改善が見込めます。
- 適切な賃金水準の検討:従業員への利益還元を考える上でも重要な指標です。
どこを見ればわかる?財務諸表を使った指標の計算と分析のポイント
これらの経営指標は、会社の財務諸表(主に損益計算書と貸借対照表)の数字を使って計算します。難しそうに聞こえるかもしれませんが、見るべきポイントが分かれば意外と簡単です。
4-1. 損益計算書(P/L:Profit and Loss Statement)
会社の「一定期間の経営成績」を示します。つまり、「どれだけ売上があり、どれだけ費用がかかり、最終的にどれだけ利益が出たか」が分かります。
項目 | 概要 | どの指標で使うか |
---|---|---|
売上高 | 商品やサービスを提供して得られた総売上 | 売上高成長率(前期比など)、粗利率、損益分岐点比率(売上高を基準とするため) |
売上原価 | 売上に対応する商品の仕入れ費用や製造費用 | 粗利率(売上高から売上原価を差し引いて粗利益を算出) |
売上総利益(粗利益) | 売上高から売上原価を差し引いた利益 | 粗利率、労働分配率(粗利益を分母とする)、売上高総利益率 |
販売費及び一般管理費 | 粗利益から差し引かれる販売費用や管理費用 | 損益分岐点比率(固定費・変動費の分類に影響)、売上高販管費率(売上高に対する販管費の割合。経営の効率性を見る) |
営業利益 | 会社の主要な営業活動で得られた利益 | 売上高営業利益率(本業の収益性を見る最も重要な指標)、投下資本利益率(ROICの一部)(投下した資本で本業がどれだけ利益を出したかを見る) |
営業外収益/費用 | 本業以外の活動から生じる収益や費用(例:受取利息、支払利息など) | 売上高経常利益率(経常利益の算出に影響)、財務レバレッジ(支払利息が負債と利益にどう影響するかを見る) |
経常利益 | 会社の通常の活動全体で得られた利益(本業+財務活動) | 売上高経常利益率(本業と財務活動を含めた会社の総合的な収益性を見る重要指標)、総資産経常利益率(総資産をどれだけ効率的に使って経常利益を出したかを見る) |
特別利益/損失 | 臨時的に発生した特別な利益や損失(例:固定資産売却益/損) | 当期純利益(最終利益に影響を与える)、企業の非経常的な事象による損益影響を見る際に参考にされる |
税引前当期純利益 | 法人税などを差し引く前の最終利益 | 当期純利益(税引後の最終利益を算出する前段階の指標として確認) |
法人税等 | 納めるべき法人税、住民税、事業税など | 当期純利益(税金控除後の最終利益を算出) |
当期純利益 | 最終的に会社に残った利益(税引後) | 自己資本比率(利益剰余金として純資産に蓄積)、総資産利益率(ROA)、自己資本利益率(ROE)(会社の最終的な収益性を見る代表的な指標) |
4-2. 貸借対照表(B/S:Balance Sheet)
会社の「ある時点での財政状態」を示します。つまり、「会社にいくら財産があり、その財産をどう調達したか(借金か、自己資金か)」が分かります。
項目 | 概要 | どの指標で使うか |
---|---|---|
資産の部 | 会社が持っている財産(現金、預金、売掛金、棚卸資産、建物、機械など) | 自己資本比率(総資産として)、総資産利益率(ROA)、総資産回転率(資産をどれだけ効率的に売上につなげたかを見る) |
負債の部 | 返済義務のある資金(買掛金、短期借入金、長期借入金、未払金など) | 自己資本比率(負債の割合で安定性を測る)、負債比率(自己資本に対する負債の割合)、流動比率(短期的な支払能力を見る) |
純資産の部 | 返済義務のない自己資金(資本金、資本準備金、利益剰余金など) | 自己資本比率(自己資本として)、自己資本利益率(ROE)、純資産回転率(純資産をどれだけ効率的に売上につなげたかを見る) |
分析のポイント:単独ではなく「変化」と「比較」で見る
経営指標は、単独の数値を見るだけでは意味が薄いことが多いです。
- 時系列で見る(変化):前月、前年、過去数年と数値を比較し、増減のトレンドを確認します。例えば、売上高は伸びているが粗利率が下がっている、自己資本比率が徐々に低下している、といった変化に気づくことが重要です。
- 目標値と比較する:自分が設定した目標値と現状を比較し、達成度合いや乖離を確認します。
- 同業他社と比較する(ベンチマーク):業界の平均値や優良企業の数値と比較することで、自社の強みや弱みがより明確になります。
財務諸表の作成や、そこから経営指標を正確に計算することは、専門知識と正確な記帳が不可欠です。これらの計算や分析に多くの時間を割くことは、多忙な経営者の方には大きな負担となるでしょう。そのため、外部に委託することで、正確な財務諸表の作成はもちろん、そこから導き出される経営指標を簡単に見ることが可能となります。これにより数字の集計に時間を取られることなく、本業や分析結果に基づく経営判断に集中できるようになります。
分析から改善へ|見つけた課題を経営に活かす方法
経営指標の分析で課題が見つかったら、いよいよ具体的な改善アクションに移ります。数字を「見る」だけでなく「活かす」ことが、会社の成長に繋がります。
ステップ1:課題の特定と優先順位付け
- どの指標が、なぜ悪いのか?
- 例:「粗利率が低い」→「原価が高すぎるのか、販売価格が低いのか?」
- どの指標が、なぜ悪いのか?
- 例:「粗利率が低い」→「原価が高すぎるのか、販売価格が低いのか?」
- 最も改善すべきはどれか?
- 複数の課題が見つかることもあります。インパクトが大きいもの、早急に対処すべきものから優先順位をつけましょう。
ステップ2:具体的な改善策の立案と目標設定
特定した課題に対して、具体的なアクションプランを立てます。
- 「仕入れ先の再交渉」
- 「高付加価値商品の開発」
- 「固定費の見直し」
- 「粗利率を現状から引き上げる」
- 「損益分岐点比率を下げる」
ステップ3:実行と定期的なモニタリング
立てた計画を実行し、定期的に経営指標をチェックして、改善が進んでいるかを確認します。PDCAサイクル(計画→実行→評価→改善)を回すことが重要です。
- 「売上は上がったが、本当に利益につながっているか?」
- 「コスト削減の効果は出ているか?」
- 「従業員のモチベーションは低下していないか?」
数字を定期的に見続けることで、新たな課題や次の打ち手が見えてきます。
経営指標を会社の成長に向けた「羅針盤」にしよう
会社の数字は、経営者の皆さまが思っている以上に、多くのことを語りかけてくれます。それは、単なる過去の結果を記録したものではなく、未来を予測し、より良い方向へ導くための「羅針盤」です。
今日から、会社の数字を「苦手なもの」ではなく「味方」にしてみませんか?
今回ご紹介した経営指標を定期的に確認し、その変化に気づき、具体的な行動へと繋げることで、あなたの会社は着実に成長の階段を上っていくはずです。そして、その過程で「数字の見方が分からない」「分析する時間がない」「改善策が思いつかない」といった壁にぶつかった時は、お気軽にお問い合わせください。
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