アナログな紙での管理は、書類の紛失リスク検索の手間非効率な情報共有残業時間の増加など、多くの課題を抱えています。紙一枚一枚を扱う手間は、小さな負担に思えても、積み重なれば大きな時間的・金銭的コストにつながります。

これらの課題を解決するためにペーパーレス化を考えている方も多いのではないでしょうか?ペーパーレス化は、単に紙をなくすことではありません。経理業務の効率を劇的に向上させ、コストを削減し、さらには経営の質を高めるための強力な手段です。

この記事では、経理のペーパーレス化を検討している方に向けて、そのメリットから具体的な進め方、陥りやすい課題とその解決策、そして税務調査の注意点まで詳しく解説します。

目次

第1章:経理のペーパーレス化がもたらす「本当の」メリット

「ペーパーレス化」と聞くと、「紙がなくなるだけで、本当にそんなに変わるの?」と思うかもしれません。しかし、経理のペーパーレス化は、あなたの想像以上に多くのメリットをもたらします。ここでは、その「本当の」メリットを具体的に見ていきましょう。

1-1. 業務効率の大幅な向上:時間と手間を削減する具体例

紙での作業は、一つ一つに時間と手間がかかります。ペーパーレス化は、この非効率を根本から解決します。

データ入力の自動化とヒューマンエラーの削減 領収書や請求書を一枚ずつ手で入力するのは、非常に手間がかかり、入力ミスも発生しやすい作業です。ペーパーレス化では、AI-OCR(文字認識)機能などを活用することで、紙の情報を自動でデータ化し、会計ソフトなどへ取り込めます。これにより、手入力の手間が大幅に削減され、ヒューマンエラーのリスクも最小限に抑えられます。

書類検索時間の劇的な短縮 「あの領収書はどこだ?」「去年の〇〇の請求書、見つからない!」といった経験はありませんか?紙の書類は、必要なものを探すのに膨大な時間がかかります。しかし、ペーパーレス化されたデータは、パソコンやスマホからキーワード検索一つで瞬時に探し出すことができます。過去の取引履歴や特定のプロジェクトに関連する書類も、あっという間に見つけられるため、経理担当者のストレスも軽減されます。

リモートワークへの対応力強化 災害時やパンデミックなど、オフィスに出社できない状況でも、ペーパーレス化されていれば安心です。インターネット環境さえあれば、自宅や外出先からでも必要な経理データにアクセスし、業務を進められます。これにより、BCP(事業継続計画)対策としても有効に機能し、柔軟な働き方を実現できます。

1-2. コスト削減効果:見えない経費をなくす

紙の経費は、意外と多くの費用がかかっています。ペーパーレス化は、これらの「見えない経費」を削減し、企業の利益に貢献します。

用紙代・印刷費・郵送費の削減 単純に、紙やインク、プリンターの消耗品にかかる費用、そして取引先に書類を郵送するための切手代や封筒代が削減されます。年間の合計額は、決して無視できない金額になるはずです。

保管スペースの削減と賃料コストの抑制 経理書類は法律で保管期間が定められており、その量は年々増え続けます。大量の書類を保管するためのキャビネットや倉庫の費用、あるいはオフィスの賃料に占める保管スペースの割合は、決して小さくありません。ペーパーレス化により、物理的な保管スペースが不要になるため、賃料コストの削減やオフィススペースの有効活用が可能になります。

1-3. 情報共有とセキュリティの強化

紙の書類は、紛失や盗難のリスク、また破損や劣化の心配が常にあります。

どこからでもデータにアクセスできる利便性 クラウド上でデータを一元管理することで、関係者が必要な情報にいつでもどこからでもアクセスできるようになります。これにより、情報共有がスムーズになり、業務の停滞を防ぎます。

紙の紛失・破損リスクからの解放 データとして保存されていれば、物理的な紛失や破損の心配はありません。地震や火災などの災害時にも、バックアップを取っておけばデータを安全に守ることができます。紙の書類を金庫に保管したり、鍵をかけたりする手間も不要になります。

データバックアップによるBCP対策 信頼できるクラウドサービスを利用すれば、定期的にデータが自動でバックアップされます。万が一のシステム障害や災害時でも、データの損失リスクを最小限に抑え、速やかに業務を再開できる体制を築けます。

1-4. 経営判断の迅速化と生産性向上

ペーパーレス化は、単なる経理業務の効率化に留まりません。経営全体の質を高めることにも貢献します。

リアルタイムなデータ把握で経営状況を可視化 紙での管理では、月次決算の確定までに時間がかかり、経営状況の把握が遅れがちです。ペーパーレス化されたデータはリアルタイムに集計・分析できるため、常に最新の経営状況を把握し、迅速な経営判断を下すことが可能になります。

本業への集中とコア業務へのリソース配分 経理担当者や経営者が、ルーティンワークである紙の処理に時間を奪われることなく、売上向上や顧客対応といった本業や、企業の成長につながるコア業務に集中できます。これにより、企業全体の生産性が向上し、事業成長の加速に貢献します。

第2章:ペーパーレス化に潜む課題と、税理士が教える解決策

ペーパーレス化は多くのメリットをもたらしますが、導入にはいくつかの課題も伴います。「こんなはずじゃなかった…」とならないためにも、事前に課題を把握し、適切な対策を講じることが重要です。

2-1. 初期導入コストと学習コストへの不安

新しいシステムを導入するには、初期費用がかかる場合があります。また、新しいツールの使い方を覚えるための時間や、従業員のトレーニングにかかる学習コストも考慮しなくてはなりません。

費用対効果を最大化する考え方 確かに初期費用は発生しますが、第1章で述べたような長期的な「業務効率化による人件費削減」「用紙代や保管費の削減」といったメリットを総合的に評価し、投資対効果(ROI)で考えることが重要です。まずは無料トライアル期間のあるツールから試してみる、小規模な部署から導入するなど、段階的に進めることでリスクを抑えられます。

従業員のITリテラシー向上と教育の重要性 新しいシステム導入には、従業員のITリテラシーの差が障壁となることがあります。丁寧な研修を行い、マニュアルを整備するほか、操作に不慣れな従業員への個別のフォロー体制を整えることが大切です。簡単な成功体験を積ませることで、抵抗感をなくし、前向きに取り組んでもらえるよう促しましょう。

2-2. 紙文化からの移行への抵抗

長年紙での運用に慣れている職場では、「紙の方が安心」「やり方が変わるのが面倒」といった抵抗感が生まれることがあります。

社内理解を得るためのコミュニケーション戦略 トップダウンで一方的に導入を進めるのではなく、ペーパーレス化の目的やメリットを全従業員に丁寧に説明し、理解と協力を求めることが重要です。経理部門だけでなく、各部署の意見を聞き、課題を共有することで、従業員一人ひとりが「自分ごと」として捉え、前向きに取り組めるようになります。

段階的な導入とスモールスタートの勧め いきなり全ての業務をペーパーレス化するのではなく、まずは領収書や請求書など、頻繁に発生する特定の書類から始める「スモールスタート」がおすすめです。小さな成功体験を積み重ね、その効果を共有することで、他の業務への横展開もしやすくなります。

2-3. 情報漏洩リスクとセキュリティ対策の重要性

データ化することで、紙の紛失リスクは減りますが、情報漏洩やサイバー攻撃のリスクは新たに考慮すべき課題となります。

クラウドサービスの選定ポイント 利用するクラウドサービスは、セキュリティ対策が強固で、信頼性の高いベンダーを選ぶことが最重要です。ISO27001などの国際的なセキュリティ認証を取得しているか、二段階認証やアクセスログ管理機能があるかなどを確認しましょう。

アクセス権限管理と従業員への意識付け 全ての従業員が全てのデータにアクセスできる状態は危険です。役職や業務内容に応じたアクセス権限を設定し、必要最小限の範囲でデータ閲覧・編集を許可しましょう。また、従業員に対しては、パスワード管理の徹底、不審なメールやサイトへの注意喚起など、情報セキュリティに関する定期的な教育が不可欠です。

2-4. 法改正への対応と税務上の注意点

ペーパーレス化、特に証憑書類の電子化を進める上で、「電子帳簿保存法」は避けて通れない法律です。法改正への対応や税務上の要件を満たさないと、思わぬトラブルにつながる可能性があります。

電子帳簿保存法とは?最低限知っておくべきこと 電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類を電子データで保存することを認める法律です。2022年1月1日の改正により、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務化など、多くの変更がありました。2024年1月からは宥恕(ゆうじょ)期間が終了し、本格的に電子データ保存が義務化されました。正しく理解し、対応することが求められます。この点については、第4章で詳しく解説します。

ペーパーレス化した書類の保存要件と注意すべきポイント 電子データとして保存する際には、「真実性の確保(改ざん防止)」と「可視性の確保(見読可能性・検索性)」という要件を満たす必要があります。タイムスタンプの付与、訂正・削除履歴が残るシステムの導入、検索機能の確保など、具体的な対応方法を理解しておくことが重要です。これらを怠ると、税務調査時に認められない可能性があるので注意が必要です。

第3章:経理ペーパーレス化の具体的な進め方:税理士と歩む3ステップ

ペーパーレス化を成功させるには、計画的なアプローチが不可欠です。効率的かつ確実にペーパーレス化を進めるための3つのステップをご紹介します。

3-1. ステップ1:現状の経理業務を徹底的に「見える化」する

まず最初に行うべきは、現在の経理業務の状況を正確に把握することです。

紙の書類と業務フローの洗い出し 経理部門でどのような紙の書類が、どこから発生し、誰がどのように処理し、どこに保管されているのかをリストアップします。領収書、請求書、契約書、通帳、各種台帳など、全て対象です。それぞれの書類がどのような業務フローの中で使われているかを図にしてみるのも有効です。

ペーパーレス化の優先順位付けと目標設定 洗い出した書類や業務の中から、「最も手間がかかっているもの」「紙の量が最も多いもの」「導入効果が高いもの」など、優先順位をつけてペーパーレス化に着手する業務を決定します。同時に、「〇年〇月までに領収書のペーパーレス化を完了させる」「月次決算にかかる時間を〇〇時間短縮する」といった具体的な目標を設定しましょう。

3-2. ステップ2:貴社に最適なツールの選定と導入

ペーパーレス化を支えるのは、適切なITツールです。自社の規模や業種、目標に合ったツールを選ぶことが成功の鍵となります。

会計ソフト、経費精算システム、請求書発行システムの種類と選び方

  • 会計ソフト: クラウド型会計ソフトは、銀行口座やクレジットカード、電子マネーの利用履歴を自動で取り込み、仕訳を自動生成する機能があります。弥生会計オンライン、freee会計、マネーフォワードクラウド会計などが代表的です。
  • 経費精算システム: 従業員がスマートフォンで領収書を撮影するだけで、経費申請・承認・精算までを一元管理できます。楽楽精算、マネーフォワードクラウド経費などが人気です。
  • 請求書発行システム: 請求書の作成から発行、郵送代行、入金管理までをデジタルで完結させます。クラウド請求書、マネーフォワードクラウド請求書、楽楽明細などがあります。

失敗しないツール選定のポイント 市場には多くのツールが存在するため、どれを選べばいいか迷ってしまうかもしれません。そこで重視すべきポイントをお伝えします。

  • 操作のしやすさ: 従業員がストレスなく使える直感的な操作性か。
  • 既存システムとの連携: 現在使用しているシステム(銀行、POSレジなど)とスムーズに連携できるか。
  • セキュリティ体制: データ保護のためのセキュリティ対策が十分か。
  • サポート体制: 導入後やトラブル発生時に、迅速なサポートが受けられるか。
  • 費用対効果: 導入費用だけでなく、長期的な運用コストを含めて費用対効果が高いか。
  • 電子帳簿保存法への対応: 最新の電子帳簿保存法の要件を満たしているか、税務調査時にも対応できるか。
  • インボイス対応の有無: 最新のインボイス制度の要件を満たしているか。

3-3. ステップ3:運用開始と定着化、そして継続的な改善

ツールを導入するだけでは、ペーパーレス化は成功しません。日々の運用を通じて定着させ、継続的に改善していくことが重要です。

従業員への研修とマニュアル作成 新しいツールの操作方法や、ペーパーレス化された業務フローに関する詳細なマニュアルを作成し、全従業員に周知徹底します。疑問点があればすぐに解決できるような相談窓口を設けることも有効です。

定期的な見直しと課題解決のサイクル ペーパーレス化は一度やったら終わりではありません。導入後も定期的に業務フローを見直し、改善点や新たな課題がないかを確認しましょう。従業員からのフィードバックを積極的に取り入れ、より効率的で快適な経理環境を追求することで、さらに大きな効果を生み出せます。

第4章:【税理士が解説】電子帳簿保存法と税務調査のリアル

ペーパーレス化を進める上で、最も重要かつ複雑に感じるのが「電子帳簿保存法」でしょう。この章では、電子帳簿保存法の基本と、税務調査で慌てないための具体的な注意点を解説します。

4-1. 電子帳簿保存法の基本を分かりやすく解説

電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類(仕訳帳、総勘定元帳、契約書、領収書、請求書など)を電子データで保存することを認める法律です。特に、2022年1月1日の改正によって、多くの企業が影響を受けることになりました。

主なポイントは以下の3つです。

  • 電子帳簿等保存: 会計ソフトなどで作成した帳簿や書類をそのまま電子データで保存すること。
  • スキャナ保存: 紙で受領・作成した書類をスキャンして電子データとして保存すること。
  • 電子取引データ保存: メールやクラウドサービスなどを介してやり取りした取引情報(請求書データなど)を電子データのまま保存すること。

特に電子取引データ保存については、原則として電子データのまま保存することが義務化され、紙に出力して保存する運用は認められなくなりました。2024年1月からは宥恕期間が終了し、本格的に義務化されました
※原則として紙保存は不可となりましたが、やむを得ない事情がある場合に限って一定の猶予措置が認められるケースもあります。

対象となる書類と保存要件(真実性・可視性) 電子帳簿保存法では、電子データの保存にあたり、「真実性の確保」と「可視性の確保」という2つの要件を満たす必要があります。

  • 真実性の確保: データが改ざんされていないこと、訂正・削除の履歴が残っていることなどを証明する要件です。タイムスタンプの付与や、訂正・削除履歴が残るシステムの使用が求められます。
  • 可視性の確保: 必要に応じてデータを速やかに表示・印刷できること、検索機能が確保されていることなどを証明する要件です。特定の項目で検索できることや、税務職員がデータを確認できる環境を用意することが求められます。

これらの要件を満たさない場合、電子データとしての保存が認められず、税務上不利益を被る可能性があるので注意が必要です。

4-2. 税務調査で困らない!ペーパーレス書類の提示方法と注意点

「ペーパーレスにしたら、税務調査で何か言われるんじゃないか?」と不安に感じる方もいるかもしれません。しかし、適切な対応をしていれば心配ありません。

税務調査官が確認するポイント 税務調査では、帳簿や証拠書類が「適正に保存されているか」「取引の内容が正確に記録されているか」が確認されます。ペーパーレス化している場合は、電子帳簿保存法の要件を満たしているかが特に注目されます。

  • データが改ざんされていないか(真実性)
  • 必要なデータが速やかに表示・検索できるか(可視性)
  • 紙の書類を破棄する際のルールが守られているか

データ検索性の重要性と準備しておくべきこと 税務調査官は、特定の取引や期間の書類を迅速に確認したいと考えます。そのため、電子データが「日付」「金額」「取引先名」などで簡単に検索できる状態にしておくことが非常に重要です。システム導入時にこれらの検索要件を満たすものを選ぶだけでなく、日々の入力時に正しい情報を入力する意識付けも欠かせません。

また、税務調査時には、電子データを閲覧できるパソコンやディスプレイ、プリンターの準備が必要となる場合があります。税務調査官の求めに応じて、速やかにデータを提供できる体制を整えておきましょう。

5:今こそ経理のペーパーレス化を!貴社の成長を加速させるために

これまでの内容で、経理のペーパーレス化が単なる「紙をなくす」行為ではないことをご理解いただけたでしょうか。これは、「時間とコストを削減し、経営の質を高め、企業の成長を加速させるための戦略的投資」なのです。

煩雑な紙の業務から解放されれば、経理担当者はより付加価値の高い業務に集中でき、経営者はリアルタイムの正確なデータに基づいた迅速な意思決定が可能になります。さらに、電子帳簿保存法に対応した適正な運用は、税務調査時の負担を軽減し、企業の信頼性を高めることにもつながります。

ペーパーレス化を進めようと考えている方は、ぜひ一度経理の専門家への相談を検討してみてはいかがでしょうか。

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