日本の中小企業が直面する「人が集まらない」という問題は、単なる採用難にとどまらず、経営全体に影響する深刻なテーマとなっています 。特に経理人材の採用においては、「欲しい人材がなかなか見つからない」「採用してもすぐに辞めてしまう」といった悩みを抱える経営者や人事担当者の方は少なくありません。

本コラムでは、長年多くの中小企業を支援してきた現役の税理士・社会保険労務士が多数在籍するテントゥーワングループが、「経理採用が難しい」と感じる根本的な原因を解き明かし、明日から実践できる具体的な採用成功のコツを徹底解説します。さらに、自社での採用に限界を感じている企業のための「攻めのアウトソーシング」という新たな選択肢についてもご紹介。本コラムを読み終える頃には、貴社の経理部門の強化と、経営の未来を切り拓くヒントが明確になっているはずです。

目次

 

1. 多くの企業が「経理を採用できない」と悩んでいる現状

「経理の募集を出しても応募が少ない」「面接をしてもマッチする人がいない」「採用してもすぐに退職してしまう」。このようなお悩みを抱える企業は、決して少なくありません。

帝国データバンクが2025年1月に行った調査では、正社員が「不足している」と答えた企業は全体の53.4%に上り、コロナ禍以降で最も高い数値を記録しました 。特に中小企業では、大企業との待遇格差や知名度の低さにより、若手人材を確保・定着させることが難しい現実が浮き彫りになっています。

経理部門は企業の血液とも言える重要な部署であり、その人材不足は単なる業務停滞に留まらず、月次決算の遅延、税務申告の誤り、経営判断の遅れなど、事業全体に深刻な影響を及ぼしかねません。この現状を打破するためには、従来の採用手法に固執せず、新たな視点と戦略が必要です。

2. なぜ経理の採用はこれほど難しいのか?考えられる5つの原因

経理人材の採用がこれほどまでに困難な背景には、複合的な要因が存在します。ここでは、主要な5つの原因を深掘りします。

2-1. 経理人材の専門性の高さと需給ギャップ

経理業務は、単なる帳簿付けではありません。複雑な税法や会計基準、度重なる法改正への対応、さらには近年ではクラウド会計システムやRPAなどのITツールへの習熟も求められます。これらの専門知識と実務経験を兼ね備えた人材は限られており、常に需要が供給を上回る「売り手市場」の状態が続いています 4

2-2. 中小企業における採用競争力の課題

大企業に比べ、中小企業は一般的に知名度が低く、給与水準や福利厚生面で劣るケースも少なくありません。これにより、優秀な経理人材は大企業やより条件の良い企業に流れやすく、中小企業は採用競争において不利な立場に立たされがちです。

2-3. 採用活動におけるミスマッチの多発

「経験者」を求めるあまり、自社の文化や業務フローに合わない人材を採用してしまうケースが見られます。また、求人票で求めるスキルや人物像が曖昧なために、応募者との間で認識のズレが生じ、結果として早期離職に繋がる「ミスマッチ」が発生しやすい傾向にあります。

2-4. 採用活動にかかる隠れたコストと工数

求人広告費用や人材紹介手数料といった直接的な採用コストだけでなく、採用担当者の面接対応や書類選考、内定者への連絡といった工数も大きな負担となります。さらに、採用後の教育コストや、ミスマッチによる早期退職が発生した場合の再採用コストなど、表面的なコスト以外にも多くの費用が発生します。

2-5. 経理業務の属人化とブラックボックス化

中小企業では、経理業務が特定の担当者に集中し、業務プロセスがブラックボックス化しているケースが少なくありません。これにより、退職者が出ると業務が滞り、新しい人材の採用・教育にも時間がかかり、さらなる採用難に拍車をかける悪循環に陥ることがあります。

3. 難しい時代に勝つ!経理採用を成功させるための具体的なコツ

経理採用の難しさに直面している今だからこそ、従来のやり方を見直し、より戦略的なアプローチを取ることが成功への鍵となります。

3-1. 求める人材像の明確化と求人票の最適化

「経験者なら誰でもいい」ではなく、「自社で何をしてほしいのか」「どのようなスキルや人物特性が必要か」を具体的に言語化しましょう。

  • 必須スキルと歓迎スキルの明確化: 例えば、「日商簿記2級必須、会計ソフト〇〇の操作経験歓迎」など。
  • 具体的な業務内容の提示: 「月次決算業務」「給与計算」「税務申告補助」など、入社後に担当する業務を具体的に記載します。
  • 企業の魅力発信: 給与だけでなく、社風、働きがい、キャリアアップの機会、教育体制などを具体的に記載し、求職者に自社の魅力を伝えます。

3-2. リファラル採用制度の構築と運用

従業員からの紹介による採用(リファラル採用)は、企業文化にフィットする人材を獲得しやすく、早期退職リスクが低いことから定着率が高くなる傾向にあります。人材紹介会社の成約手数料に比べると、インセンティブが割安となり、かつ人材の定着率も高まるという期待から、一見すれば高額にも見えるインセンティブであっても、効果の高い支出になり得ます。

リファラル採用の税務上の留意点

インセンティブを受け取った従業員やその友人に税金はかかるのでしょうか。答えとして、そのインセンティブについて、従業員としての業務に直接関係する実態があれば給与所得、そのような実態がなければ雑所得として所得税や住民税が課税されます。インセンティブが少額であり、結果論として、実際には納税が発生しないということもあり得ます。しかし、インセンティブには税金がかかる、という事実をあらかじめ明確にしておかないと、企業への不信感など「あとあとの要らぬ労使トラブル」に発展するリスクも否定できません。

リファラル採用を社内制度として正式に運用する場合、単なる紹介制度から「制度化された人事施策」へと昇華させることも検討しましょう。実際に活用できる社内規程(制度設計)の雛形を以下に示します。

【社内リファラル採用制度規程】
第1条(目的) 本制度は、社員による有望な人材の紹介を促進することで、当社の人材採用の質を高め、定着率向上を図ることを目的とする 13
第2条(対象者) 社員(契約社員・アルバイトを含む)を対象とする。ただし、採用決定権を持つ人事担当者や役員は除く 14
第3条(紹介対象) 当社が定める求人ポジションにおいて、紹介可能な候補者は、紹介者との直接的な知人や友人に限る。
第4条(紹介方法) 紹介者は、所定の紹介フォームまたは指定の方法により、候補者の情報を提出し、候補者本人の同意を得るものとする。
第5条(紹介報酬) 1. 採用された場合、以下の報酬を支給する。
正社員採用:××万円 契約社員・アルバイト:××万円
2. 支給時期は、候補者の入社後×カ月経過後の給与支給時とする。
3. 報酬は給与として支給し、源泉徴収の対象とする。
第6条(禁止事項) 以下の行為を禁止する。
1. 候補者の同意を得ずに紹介する行為
2. 虚偽の情報提供
3. 採用選考への不正な関与
第7条(その他) 1. 採用の最終決定は会社が行う。
2. 本制度は事前の告知なく変更・廃止することがある。
(附則)本制度は20××年××月××日より施行する。

3-3. 実質的な採用コストの把握と予算設計

表面的な年収だけでは見えない経理人材の採用コストについて理解を深めましょう。

経理人員配置の実務的な目安

経理業務を記帳業務と給与計算業務とに区分けして、各業務に必要となる経理担当者の数を目安として俯瞰します。業種業態、会計システムや業務フローにもよりますが、記帳を含む会計業務では、年商10億円ごとに1名から2名の経理担当者が必要といわれます。給与計算を含む労務業務では、従業員100名ごとに1名から2名の経理担当者が必要といわれます。よって、年商が10億円で従業員数が100名であれば、2名から4名の経理担当者が必要と目安がたちます。

経理人材の確保に必要なコスト

エリアやスキルセットにもよりますが、経理担当者の年収として、マネージャーであれば600万円から800万円、会計業務の担当者で400万円から550万円、労務業務の担当者で350万円から500万円が目安といわれます。年商や従業員数から、経理担当者として確保すべき人数を目安として求め、ここに目安となる年収を乗じれば、必要となる表面的な人件費(人数×年収)が計算できます。

実質的な人件費は年収の1.3倍?

企業が負担する実質的な人件費を考える場合、表面的な人件費に、社会保険の企業負担などの法定福利費や福利厚生費、採用費や教育費などの雇用に付帯する費用を加算する必要があります。中小企業では年収(表面的な人件費)の30%程度が、雇用に付帯する費用であるといわれます。よって、表面的な人件費「×1.3倍」が実質的な人件費となります。仮に、年収600万円のマネージャー1名、会計と労務を兼任する年収500万円の担当者1名を雇用した場合、表面的な人件費は1,100万円、実質的な人件費は1,430万円となります 。

3-4. 面接での見極めと効果的なオンボーディング

面接ではスキルだけでなく、自社文化へのフィット度や、変化への適応力を見極めることが重要です。また、採用後のオンボーディング(新入社員の受け入れ・育成プログラム)を充実させることで、早期離職を防ぎ、定着率を高めることができます。

4. 「経験者」の採用に固執しすぎていないか?採用ターゲットを見直す視点

「経理経験者」の採用が難しい現状で、そこだけに固執することは、採用のチャンスを狭めている可能性があります。視点を変え、「未経験者」や「ポテンシャル採用」も視野に入れることで、人材確保の幅が大きく広がります。

4-1. 未経験者採用のメリット

  • 人件費の抑制: 経験者よりも給与水準を抑えられる場合があります。
  • 自社文化への順応性: これまでの経理業務のやり方に縛られず、自社のルールや業務フローにスムーズに馴染みやすい傾向があります。
  • 育成による定着率向上: 自社で丁寧に育成することで、企業への愛着が芽生え、長期的なキャリア形成に繋がり、結果として定着率が高まる可能性があります。

4-2. 育成体制と教育プログラムの構築

未経験者を採用する際には、体系的な育成体制と教育プログラムが不可欠です。

  • 業務マニュアルの整備: 業務の流れや手順を明確にし、誰でも参照できるマニュアルを作成します。
  • OJT(On-the-Job Training)の実施: 経験豊富な社員がOJTトレーナーとなり、実務を通じて知識やスキルを伝授します。
  • 外部研修の活用: 簿記の資格取得支援や、会計ソフトの操作研修など、専門知識習得のための外部研修も積極的に活用します。
  • 定期的なフィードバック: 定期的に面談を行い、成長をサポートし、不安や疑問を解消できる機会を設けます。

5. それでも採用が難しい場合の選択肢:派遣・アウトソーシングの活用

「雇用は成長の鍵か、それともリスクか?今こそ問われる人材戦略の本質」。人手不足時代において、すべてを自前で賄うという考え方は限界を迎えています。「雇う」だけが唯一の選択肢ではありません。社外リソースを戦略的に活用することで、経理の課題を解決し、経営の安定と成長を実現することが可能です。

5-1. 派遣社員の活用

一時的な業務量の増加や、特定のプロジェクト期間のみ専門スキルが必要な場合など、柔軟な人材確保が可能です。採用コストや社会保険料の負担は派遣会社が負うため、企業側のコスト削減にも繋がります。ただし、指揮命令権が派遣元にある点や、長期的なキャリア形成が難しい点は留意が必要です。

5-2. 経理代行サービスという選択肢

経理代行サービスは、企業の経理業務の一部または全てを外部の専門業者に委託するサービスです。経営の質を高める「選択と集中」のためにも、すべてを自社で抱え込むのではなく、「自社で行うべき業務」と「社外に委ねるべき業務」の線引きが極めて重要です 。

「自社でやるべき仕事」と「外に出すべき仕事」

経営戦略の立案・実行、商品・サービスの企画開発、顧客対応・営業活動、人材育成・企業文化づくりといった業務は、企業の競争力に直結する「コア業務」であり、自社で行うべき業務です 。

一方で、会計財務・税務申告、勤怠管理・給与計算、年末調整、法定調書の作成、社会保険・労務関連の手続きといった経理業務は、定型的で標準化でき、法令対応など企業の独自性に由来しない専門知識に基づく業務であることからも、アウトソーシングによって効率的に運用しやすい業務です 。

税理士事務所に経理代行を依頼する強み

経理業務をアウトソーシングすることで、企業は「経営に集中できる時間」を取り戻します 。特に税理士事務所に経理代行を依頼することには、以下のような大きなメリットがあります。

  • 税務・会計の専門家が直接対応: 法改正への迅速な対応、正確性の担保はもちろん、記帳代行だけでなく税務相談や節税アドバイスまで一貫して受けられます。
  • 高い信頼性と継続性: 担当者の退職による業務停滞のリスクがなく、情報漏洩対策も万全です。
  • 経営状況に合わせた柔軟なサービス提供: 貴社の状況に応じた最適なサービスを提案し、月次決算の早期化や経営分析までサポートが可能です。
  • コスト削減効果: 経理担当者を雇用する場合の実質的な人件費と比較し、大幅なコスト削減が期待できます。添付コラムで述べた「表面的な人件費の1.3倍」が実質的な人件費となることを考慮すると、その効果は大きいでしょう。

「経理は『中でやる』から『外に出す』時代へ」。経理業務をアウトソーシングすることで、企業は安心して未来を描けます。経理担当者の採用や教育、そして過剰な業務負荷やこれに起因する退職にも悩まされる必要はありません 。

6. 採用戦略を見直し、強い経理部門を構築しよう

「経理採用が難しい」という課題は、多くの企業が抱える共通の悩みです。しかし、この課題を「採用できない」という諦めで終わらせるのではなく、企業の成長機会と捉え、新たな採用戦略や外部リソースの活用を検討する好機と捉えましょう。

  • 経理業務が属人化・ブラックボックス化しており、業務の標準化や効率化が進まない。
  • 月次決算が遅く、その正確性に疑義があり、実績に基づく適切な経営判断ができない 。
  • 顧問税理士との契約はあるが、経理業務の細部では、法改正への対応が後手と感じる 。

このようなお悩みがある場合は一度専門家へ相談することも大切です。「経理採用の難しい」という現状から一歩踏み出し、「人を雇う」という選択肢だけではない、新しい成長の選択肢がみえるようなるでしょう。

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