「うちの会社の経理も、そろそろデジタル化を進めないと……」
そうお考えの中堅・中小企業の経営者や経理担当者は多いのではないでしょうか。特に、近年の技術革新、中でもAI(人工知能)の進化は目覚ましく、経理部門の未来像を大きく変えようとしています。
「AIが経理の仕事を奪う」といった議論が一部で聞かれる一方で、私たちの専門的な見解では、AIは単なる脅威ではなく、 経理業務を圧倒的に効率化し、より付加価値の高い仕事へと進化させるための強力なツール です。
本コラムでは、経理業務におけるAIの具体的な役割と活用事例、そして来るべきDX(デジタルトランスフォーメーション)時代を生き抜くために経理担当者が身につけるべきスキルについて、専門家であるテントゥーワン税理士法人の視点から徹底的に解説します。単なる技術解説に留まらず、中堅・中小企業が直面する人材不足、コスト削減、生産性向上といった具体的な経営課題の解決に資する情報を提供します。
目次
- 1. AIは経理の仕事を奪うのか?経理業務におけるAIの役割
- 2. AI活用で得られる3つのメリットと導入時の注意点
- 3. 【事例紹介】AIは経理業務のどこで活用されているのか?
- 4. AI時代に経理が生き残るために必要な3つのスキル
- 5. まとめ:未来の経理部門を築くために
1. AIは経理の仕事を奪うのか?経理業務におけるAIの役割
AIの導入を検討する際、多くの人がまず抱く疑問が「AIは人間の仕事を奪うのか?」というものです。結論から言えば、AIは経理の仕事を「奪う」のではなく、「変える」と捉えるべきです。より正確には、AIは人間の得意なことと不得意なことを明確に分け、役割分担をすることで、経理部門全体の生産性を劇的に向上させる存在となります。
1-1. 経理業務におけるAIの現状と展望
現在、経理業務におけるAI活用は、すでに一部の先進的な企業で始まっています。特に進んでいるのが、 定型業務の自動化 です。
- AI-OCR(光学文字認識): 請求書や領収書、請求明細書といった紙の書類をスキャンし、AIが自動で文字や数値を認識してデータ化します。従来のOCRとは異なり、AIはフォーマットが異なる書類でも高い精度でデータを読み取ることが可能です。
- 仕訳入力の自動化: クレジットカードの利用明細や銀行口座の入出金データをAIが学習し、勘定科目を推測して自動で仕訳を生成します。
これらの技術は、すでに実用レベルに達しており、中堅・中小企業でも導入が進んでいます。今後は、さらに進化し、より複雑な業務にもAIが活用されることが見込まれています。例えば、 生成AI による月次決算報告書の草案作成や、税務上の判断をサポートする情報提供などが、未来の経理部門の日常風景となるかもしれません。
1-2. AIが得意な業務と、人間にしかできない業務の違い
AIが得意なことと、人間が担うべき役割を理解することは、 DX を成功させる上で不可欠です。
【AIが得意な業務】
- データ入力・転記: 大量の紙の書類や電子データを、高速かつ正確にシステムへ入力・転記する作業。
- パターン認識・分類: 膨大な取引履歴から特定のパターン(例:旅費交通費、会議費など)を認識し、適切な勘定科目に分類する作業。
- 計算・集計: 複雑な計算や、複数のデータソースから数値を集計し、レポートを作成する作業。
- 異常検知: 過去のデータと比較し、不正な取引や入力ミスなど、通常とは異なるパターンを自動で検知する作業。
これらの業務は、いずれも ルールに基づいて反復的に行われる定型作業 です。AIは疲れることなく、24時間365日、高い精度でこれらの作業をこなすことができます。
【人間にしかできない業務】
- 戦略的な意思決定: AIが分析した財務データに基づき、経営戦略を立案したり、新規事業への投資を判断したりする業務。
- 対人コミュニケーション: 経営層への報告・提言、他部署との連携、金融機関や税務当局との折衝、そして従業員の経費精算に関する問い合わせ対応など。
- 創造的思考と課題発見: 財務諸表の数字の裏側にある経営課題(例:特定の部署のコスト増、売上低迷の原因など)を読み解き、根本的な解決策を考案する業務。
- 高度な判断: 税務上のグレーゾーンにおける判断や、法律・税制改正を踏まえた複雑な会計処理の判断。
AIはあくまでツールであり、最終的な判断を下し、人との関係性を構築するのは人間の役割です。もっとも、AIにも限界があります。例えば、仕訳推測の誤判定により科目が誤って処理されたり、異常検知システムが過剰に反応して誤アラートを発するケースもあります。こうした“AIならではの誤り”はゼロにはできないため、最終確認や判断は必ず人間が担う必要があります。AIを過信せず、ツールの特性を理解した上で役割分担を設計することが重要です。この役割分担を明確にし、人間がより価値の高い仕事に集中できる環境を構築することこそが、経理の デジタル化 の究極の目的です。
1-3. AIとRPAの違いを理解する
AIと混同されがちな技術にRPA(Robotic Process Automation)があります。どちらも「 自動化 」を実現する技術ですが、その本質は大きく異なります。
項目 | RPA | AI |
---|---|---|
得意分野 | 事前に設定された ルール通り の反復作業 | データから自律的に 学習・推論 し、高度な判断を伴う作業 |
具体例 | 毎朝の特定ファイルのダウンロード、Webサイトからのデータ転記、定型的なメール送信など | 書類の文字認識、勘定科目の推測、不正検知、将来の財務予測など |
適用業務 | 「If-Then(もし~ならば、~する)」で定義できる単純な定型作業 | パターン認識や高度な分析を必要とする非定型的な作業 |
RPAは「指示された通りに動くロボット」、AIは「自ら考えて判断するロボット」と考えると分かりやすいでしょう。経理DXにおいては、両者の特性を理解し、業務に応じて最適なツールを組み合わせることが重要です。実際の現場では、RPAとAIを組み合わせることで高い効果を発揮します。たとえば、RPAが毎朝決まったフォルダから請求書データを収集し、その後AIが内容を読み取り・仕訳推測を行い、最終的に担当者が承認する、といった流れです。このように「RPAが手足、AIが頭脳、人間が司令塔」と役割を明確にすると、経理業務全体がスムーズに機能します。
2. AI活用で得られる3つのメリットと導入時の注意点
AIを単なる業務効率化ツールとして捉えるだけでは、その真価は発揮されません。AIを経営戦略の一環として捉え、経理部門のあり方そのものを変革することが、中堅・中小企業にとって大きな競争優位性につながります。
2-1. メリット1:業務の圧倒的な効率化とコスト削減
最も分かりやすい メリット は、日々のルーティンワークから解放されることによる 業務効率化 です。
例えば、毎月何百枚、何千枚と発生する請求書や領収書を一枚ずつ手で確認し、 データ入力 し、 仕訳 する作業は、時間と労力がかかります。AI-OCRを導入すれば、これらの作業はほぼ自動化され、担当者は内容の最終確認をするだけで済みます。これにより、月間の作業時間が大幅に短縮され、人件費という観点での コスト削減 にもつながります。
さらに、業務が自動化されることで、残業時間の削減や、経理担当者が本来の定時内で他の重要な業務に集中できるようになります。これにより、経理部門全体の 生産性向上 が実現します。
2-2. メリット2:ミスの削減と精度の向上
人間が行う データ入力 や集計作業には、どうしてもヒューマンエラーがつきものです。数字の入力ミス、勘定科目の間違い、重複した請求書の処理など、小さなミスが後々の大きな問題( 税務調査 時の指摘など)につながる可能性も否定できません。
AIは、学習した膨大なデータに基づいて判断を行うため、一貫して正確な処理が可能です。また、通常のパターンから外れた取引を自動で検知する機能は、不正経理の早期発見や、意図しない入力ミスを防ぐ上でも非常に有効です。これにより、財務データの信頼性が格段に向上し、経営者がより正確な情報に基づいた意思決定を行えるようになります。
2-3. メリット3:より戦略的な業務へのシフト
経理部門の本来の役割は、単なる「 過去の記録係 」ではありません。企業の財務状況を正確に把握し、そのデータを分析することで、経営者の意思決定を強力にサポートする「 未来の羅針盤 」となることです。
AIによる定型業務の自動化は、経理担当者がこの「 戦略的な業務 」に集中するための時間を生み出します。具体的には、以下のような業務に注力できるようになります。
- 財務分析と経営改善提案: 月次決算データを詳細に分析し、特定のコストが増加している原因を特定したり、部門ごとの収益性を比較したりして、具体的な改善策を経営層に提言する。
- 資金繰り計画の策定: 将来のキャッシュフローを予測し、資金ショートを防ぐための対策を立てる。
- 事業計画のサポート: 新規事業の採算性をシミュレーションし、意思決定に必要な財務情報を提供する。
これらの業務は、まさに中堅・中小企業の 財務 基盤を強化し、持続的な成長を可能にする上で不可欠なものです。AIは、経理を「コスト部門」から「企業価値を創造する部門」へと変革させる力を持っているのです。
2-4. 導入前に知っておくべき注意点と対策
AI導入は多くの メリット をもたらしますが、同時にいくつかの注意点も存在します。
注意点 | 対策 |
---|---|
導入コストとROI | 初期導入費用だけでなく、運用・保守費用も考慮した長期的なコストシミュレーションを行う。スモールスタートで段階的に導入し、効果を検証しながら範囲を広げる。 |
セキュリティリスク | 重要な財務データがクラウド上で管理されるため、セキュリティ対策が万全なベンダーを選定する。社内でもアクセス権限の厳格化などルールを徹底する。 |
社内体制の構築 | 新しいシステムに抵抗感を持つ従業員もいるため、導入目的とメリットを事前に丁寧に説明し、理解を促す。導入後の教育やサポート体制を整備する。 |
業務フローの見直し | 単にAIツールを入れるだけでなく、現在の業務フローに無駄がないか徹底的に見直す必要がある。ツールに合わせて業務を再設計する(BPR: Business Process Re-engineering)ことが重要。 |
これらの課題を自社だけで解決するのは容易ではありません。特に、中堅・中小企業では専門的な知識を持った人材が不足しているケースが多いでしょう。このような時こそ、外部の専門家である 税理士 や コンサルタント を活用することが、DX成功への近道となります。
3. 【事例紹介】AIは経理業務のどこで活用されているのか?
AIは、すでに私たちの身近なところで様々な 経理 業務をサポートしています。ここでは、具体的な 導入事例 を交えて、その活用シーンをご紹介します。
3-1. 請求書や領収書のデータ入力
この分野は、AIが最も効果を発揮する領域の一つです。多くの企業では、毎月数百から数千枚の紙の 請求書 や 領収書 が届き、これらを一つひとつ手作業でシステムに データ入力 しています。
AI-OCR機能を搭載した クラウド会計 システムや経費精算システムを導入すれば、以下の流れで業務が劇的に変わります。
- 請求書や領収書をスキャナーやスマートフォンのカメラで撮影。
- 画像データがシステムに送信され、AIが自動で取引日、取引先、金額、品目などを読み取る。
- AIが読み取った内容を元に、自動で 仕訳 を生成。
- 担当者は生成された仕訳内容をざっと確認し、承認ボタンを押すだけ。
これにより、単純な入力作業から完全に解放され、担当者はより価値の高い確認作業や、イレギュラーな取引への対応に時間を割くことができるようになります。
3-2. 経費精算や交通費の自動仕訳
従業員の 経費精算 は、経理部門にとって大きな負担となる定型業務の一つです。特に、営業担当者が多い企業では、毎月の精算作業が膨大になりがちです。
AIを活用した経費精算システムを導入すれば、以下のような 自動化 が実現します。
- 領収書読み取り: 従業員がスマートフォンで 領収書 を撮影するだけで、AIが金額や日付、店舗名を自動で読み取り、 経費精算 データを作成します。
- 交通費精算: GPS機能と連携し、電車やバスの乗降履歴から自動で交通費を計算・精算データを作成します。
- 自動仕訳: 生成された精算データは、設定されたルールに基づき、自動で 仕訳 されます。
これにより、従業員は手入力の手間が省け、経理部門は精算書の確認・承認作業に集中できます。経費精算業務のペーパーレス化も同時に実現し、 デジタル化 が大きく進みます。
3-3. 財務分析や経営計画のサポート
AIは、定型業務の自動化だけでなく、 財務 データの高度な分析にも活用されています。AIが過去の財務データや市場トレンドなどの外部データを分析することで、人間では気づきにくい示唆を得ることができます。
例えば、AIは以下のような高度な分析をサポートします。
- 将来のキャッシュフロー予測: 過去の入出金データから、将来の資金繰りを予測し、資金不足に陥るリスクを事前に検知する。
- 財務リスク分析: 複数の財務指標を組み合わせ、潜在的な財務リスク(例:特定の売掛金の回収遅延リスク)を検知し、アラートを発する。
- 経営計画の策定: 売上や利益の推移、コスト構造の変化などをAIが多角的に分析し、経営改善のためのヒントや、新たな事業戦略の方向性を提案する。
これらの分析結果を基に、経営者はより迅速かつ的確な意思決定を行うことができます。AIは、経理部門が「 企業の未来を創るパートナー 」へと役割を変えることを可能にするのです。
4. AI時代に経理が生き残るために必要な3つのスキル
AIが定型業務を代替する未来において、経理担当者は何を身につけるべきでしょうか。単純な データ入力 や 仕訳 の知識だけでは、 未来 の経理部門で 生き残る ことは困難です。ここでは、AI時代に求められる、付加価値の高い3つの スキル をご紹介します。
4-1. 解決策1:最新のITツールやAIに関する知識
「 経理 の仕事だから、ITは関係ない」という時代は終わりました。 AI や クラウド会計 、 RPA 、BIツールなど、最新のITツールは、経理業務の効率化と高度化に不可欠です。
経理担当者は、これらのツールの特性や機能を理解し、自社の課題解決にどのように活用できるかを考える必要があります。
- ツールの選定: 自社の規模や課題に合ったツールを選定する知識。
- ツールの操作: ツールを使いこなし、データの入出力や分析を行うスキル。
- 最新動向のキャッチアップ: AI技術の進化は非常に速いため、常に最新のトレンドを学び続ける姿勢。
もちろん、すべてのツールに精通する必要はありません。しかし、専門家である 税理士 や 社会保険労務士 と対話するために、最低限の知識は必須となります。
4-2. 解決策2:データ分析力と課題発見能力
AI が自動で集計・分析したデータは、あくまで「 材料 」に過ぎません。そのデータを読み解き、隠された意味を見出し、経営課題を特定し、解決策を提案する能力は、人間ならではのものです。
- 財務データの解釈: 財務諸表の数字が何を意味するのかを深く理解し、経営状況を客観的に評価する力。
- 原因分析: 売上や利益の増減といった結果の裏側にある要因(例:特定の取引先の売上増、広告宣伝費の増加など)を特定する力。
- 課題解決の提案: データ分析から見出された課題に対し、具体的な改善策(例:コスト削減策、新たな資金調達方法など)を経営層に提案する力。
この能力は、財務や 会計 の知識だけでなく、経営全般に対する幅広い視野が求められます。中小企業診断士が活躍するテントゥーワン税理士法人では、この分野こそが 経理 部門の 未来 を左右する最も重要な スキル であると考えています。
4-3. 解決策3:コミュニケーション能力とマネジメント能力
AIが普及するほど、経理部門における対人スキルはより重要になります。なぜなら、AIは「無機質なデータ」しか扱えないからです。
- 経営層への提言: 複雑な財務分析の結果を、経営者が理解しやすい言葉で簡潔に説明し、説得力を持って提言するコミュニケーション能力。
- 他部署との連携: 営業や製造部門など他部署と連携し、現場の課題やニーズを正確に把握するコミュニケーション能力。
- プロジェクト推進: DXツールの導入や新しい業務フローへの移行を、関係部署を巻き込みながら円滑に進めるマネジメント能力。
また、AI時代には、経理部門全体のマネジメントも大きく変わります。AIに任せる業務と人間に任せる業務を適切に振り分け、経理担当者がより創造的な仕事に集中できるよう、部署全体をマネジメントする能力が求められます。
5. まとめ:未来の経理部門を築くために
本コラムでは、 経理 業務における AI の役割と、来るべき DX 時代を 生き残る ために必要な スキル について解説しました。AIは、単なる業務効率化ツールではなく、企業の成長を支える「戦略的な経理部門」を築くための強力なパートナーです。
しかし、中堅・中小企業がAIを導入し、 デジタル化 を成功させるためには、多くの障壁が存在します。
- 自社の課題に合ったツールが分からない。
- 導入事例 は知っていても、具体的な進め方が分からない。
- 導入後の運用や、従業員への教育に不安がある。
私たちは、そのような企業の皆様を総合的にサポートする専門家集団です。テントゥーワングループは、創業以来 40年 にわたり、地域の中堅・中小企業をサポートしてまいりました。税務や 会計 の専門知識だけでなく、 中小企業診断士 も在籍するスタッフ 約50名 のチームで、財務分析や経営改善提案、そして DX 推進まで、貴社の 未来 を共に創り上げるための伴走者として、最適な解決策を提示します。
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