中堅・中小企業の経営者や経理・総務担当者の皆様は、日々の業務で「会計」と「税務」という言葉を頻繁に耳にすることでしょう。しかし、これら二つの概念が具体的にどう異なり、それが経営にどのような影響を与えるのかを明確に理解している方は、意外と少ないかもしれません。このコラムでは、会計と税務の決定的な違いに焦点を当て、その違いを理解することがいかに会社の利益最大化、ひいては企業価値向上に直結するのかを解説します。

【監修:税理士 中小企業診断士 前田直樹】

目次

1. 経理・経営者が抱える「漠然とした不安」の正体

多くの経営者や経理担当者が、「税金が高く感じられる」「税務調査への対応に自信がない」「適切な節税ができているか心配」といった漠然とした不安を抱えています。これらの不安の多くは、会計と税務の目的やルールの違いが明確に把握できていないことに起因します。

例えば、会計上の利益は黒字なのに、手元に現金が残らない、あるいは想定より多額の税金が発生するケースは少なくありません。これは、会計と税務がそれぞれ異なる目的とルールに基づいて計算されているためです。この曖昧さが、不必要な税負担や、誤った経営判断につながる「漠然とした不安」の正体なのです。

1-1. 正しい理解がもたらす経営判断へのインパクト

会計と税務の違いを正しく理解することは、単に税金を減らすだけでなく、より精度の高い経営判断を下すための基盤を築きます。会計が企業の「健康状態」を示す羅針盤であるのに対し、税務は「国への納税」という義務を果たすためのルールです。これら二つを混同すると、会計上の利益だけを見て投資判断を下し、後で思わぬ税負担に苦しむといった事態を招きかねません。

正しい知識を持つことで、資金繰り改善、予実管理の精度向上、そして合法的な節税対策など、多岐にわたる経営課題に戦略的に取り組むことが可能になります。これは、中堅・中小企業が持続的に成長していく上で不可欠な要素です。

1-2. 知らないと損をする?会計と税務の「落とし穴」

会計と税務の違いを知らないことで陥りやすい「落とし穴」は数多く存在します。例えば、

  • 会計では費用でも税務では損金とならない項目がある: 交際費の一部や、特定の役員報酬など、会計では費用として計上できても、税務では損金として認められないものがあります。これらを理解しないと、想定よりも高い税金を支払うことになります。
  • 資産の評価方法の相違: 減価償却の方法や、棚卸資産の評価など、会計と税務で異なる評価基準が適用されることがあります。これが、最終的な利益や所得に影響を与えます。
  • 税務調査での指摘リスク: 会計と税務のルールを混同していると、税務調査で不適切な会計処理や申告漏れを指摘されるリスクが高まります。追徴課税や加算税といった予期せぬ負担が発生することも考えられます。

これらの落とし穴を回避するためには、両者の明確な区分と、それぞれのルールを把握することが不可欠です。

2. 会計と税務の基本を紐解く:それぞれの目的と役割

会計と税務は、どちらも企業の経済活動を数値で表現する点では共通していますが、その目的と役割は大きく異なります。この根本的な違いを理解することが、その後の具体的な差異の理解へと繋がります。

2-1. 会計の役割:企業の羅針盤としての「財務会計」

企業における「会計」とは、主に企業の経済活動を記録・分類・集計し、その結果を利害関係者(株主、債権者、金融機関、取引先など)に報告するためのシステムを指します。特に外部の利害関係者への情報開示を目的とするものを「財務会計」と呼びます。

財務会計の主な目的は以下の通りです。

  • 企業の財政状態と経営成績の明確化: 貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を作成し、企業の資産、負債、純資産の状態や、収益、費用、利益の状況を定期的に報告します。これにより、企業が健全な経営を行っているかを客観的に示すことができます。
  • 投資家や債権者の意思決定支援: 財務諸表は、投資家が企業の将来性や収益性を判断する材料となり、金融機関が融資の可否を決定する際の重要な情報源となります。
  • 経営者の意思決定支援: 内部の経営者にとっても、財務会計の情報は経営戦略の立案や、問題点の早期発見に役立つ重要なデータとなります。例えば、部門ごとの収益性を分析したり、コスト構造を把握したりすることで、より効果的な経営資源の配分を検討できます。
  • 企業統治(ガバナンス)の強化: 企業活動の透明性を高め、適切な企業統治を推進する上でも財務会計は不可欠です。

このように、財務会計は企業の「過去」の活動結果を正確に記録し、「現在」の財政状態を可視化することで、「未来」の経営判断に資する情報を提供する、いわば企業の羅針盤としての役割を担っています。

2-2. 税務の役割:国への納税義務を果たす「税務会計」

一方、「税務」とは、企業が国や地方公共団体に対して課せられる税金を計算し、納税義務を果たすための行為全般を指します。税務の目的は、公平かつ公正な税負担の実現であり、そのために税法という明確なルールが定められています。企業活動の中で行われる税金計算に特化した会計を「税務会計」と呼びます。

税務会計の主な目的は以下の通りです。

  • 税金の適正な計算と申告: 法人税、消費税、地方税など、企業に課せられる様々な税金を、税法に基づいて正確に計算し、申告書を作成します。
  • 税法の遵守: 税法で定められた計算方法や処理基準に従い、納税義務を履行します。会計上のルールとは異なる場合でも、税法が優先されます。
  • 税務調査への対応: 税務当局による調査があった際に、適切に説明できる根拠資料を準備し、必要に応じて対応します。

税務会計は、財務会計の情報を出発点としますが、その目的が納税義務の履行であるため、税法の規定に則って、会計上の利益を「税務上の所得」に調整するプロセスが不可欠となります。この調整が、両者の決定的な違いを生み出す要因となるのです。

3. ココが重要!「会計と税務」具体的な違いの深掘り

会計と税務の目的の違いが明確になったところで、次に具体的な会計処理や評価基準において、両者がどのように異なるのかを深掘りしていきます。これらは、中堅・中小企業の経営者が特に理解しておくべきポイントです。

3-1. 「収益と費用」の認識基準のズレ

会計と税務で最も顕著な違いの一つが、収益と費用(税務上は益金と損金)の認識基準のズレです。

  • 会計上の収益・費用(発生主義): 会計(財務会計)では、原則として「発生主義」が採用され、現金の収受に関わらず、経済的事象が発生した時点で収益や費用を認識します。収益認識基準では、履行義務が充足され、顧客に商品やサービスの支配が移転した時点で収益を認識します。例えば、商品を出荷し顧客が支配を得た時点(売掛金が発生した時点)で収益を計上します。仕入れた材料はまず棚卸資産として計上し、販売時に対応する売上原価として費用化します。
  • 税務上の益金・損金(権利確定主義、または個別法規): 税務(税務会計)においても発生主義を基礎としつつ、課税の公平性を確保するため、収益認識では「権利確定主義」が重視されます。実際に金銭を受け取ったり、請求権が確定した時点で益金とすることが多いです。費用についても、損金算入が認められない項目や、損金算入時期が限定される項目があります。

具体的な例:

  • 交際費: 会計では全額費用として計上できますが、税務上は一定の制限(例えば、接待飲食費の50%まで、または中小企業の場合、年間800万円のいずれか大きい金額までなど)があります。この制限を超えた部分は、会計上の費用であっても税務では損金として認められず、課税所得に加算されます。
  • 引当金: 貸倒引当金や退職給付引当金などは、会計上、将来発生するであろう費用を見込んで計上しますが、税務上は税法で定められた要件を満たさない限り、原則として損金に算入できません。これは、税法の公平性の観点から、未確定な費用を安易に損金とすることを認めないためです。ただし、一部の法人(資本金1億円以下の普通法人など)には、貸倒引当金の損金算入が認められる繰入限度額が設定されています。
  • 役員給与: 会計では費用ですが、税務上は定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかの要件を満たし、かつ不相当に高額でないものに限られます。これらの要件を満たさない役員給与は損金不算入となる場合があります。

これらの認識基準のズレが、会計上の利益と税務上の所得の差を生み出す主要因となります。

3-2. 「資産と負債」評価方法の相違

資産や負債の評価方法も、会計と税務で異なる場合があります。特に、固定資産の減価償却費や棚卸資産の評価方法に違いが見られます。

  • 固定資産の減価償却:
    • 会計上の減価償却: 会計では、企業の実態に合わせた合理的な方法(定額法、定率法、生産高比例法など)を企業が選択し、資産の使用実態に合わせて費用配分します。これは、より正確な期間損益計算を目的としています。
    • 税務上の減価償却: 税務上も原則として会計上の処理を容認しますが、償却限度額や償却方法について税法で厳格な規定が設けられています。例えば、耐用年数や償却率が法定されており、それ以上の償却は認められません。また、特別償却といった税法独自の制度もあります。これは、特定の資産(例えば、中小企業投資促進税制の対象設備など)について、通常の減価償却費に加えて、追加で費用計上を認め、税負担を軽減する制度です。このため、会計上の減価償却費と税務上の損金算入額にズレが生じることがあります。
  • 棚卸資産の評価:
    • 会計上の棚卸資産: 会計では、原価法(個別法、先入先出法、移動平均法、総平均法など)や低価法など、企業の実態に合わせた多様な評価方法が選択できます。特に、上場企業が適用する会計基準では、低価法が強制適用されることが多いです。
    • 税務上の棚卸資産: 税務上もいくつかの評価方法が認められていますが、原則として企業が選択した方法に従うこととされています。ただし、選択しない場合は法定された方法(最終仕入原価法)が適用されるなど、税法に則った運用が求められます。会計では認められない「最終仕入原価法」が税務では法定評価法となっている点も、両者の違いとして挙げられます。

これらの評価方法の相違は、期末の資産残高や費用計上額に影響を与え、結果として会計上の利益と税務上の所得の差に繋がります。

3-3. 「会計上の利益」と「税務上の所得」の調整プロセス

会計上の利益と税務上の所得が異なることを理解した上で、最も重要なのが、この二つを一致させるための「調整プロセス」です。この調整は、税務申告書を作成する際に行われる「確定申告書別表四(所得の金額の計算に関する明細書)」で行われます。

具体的には、会計上の税引前当期純利益を出発点として、以下の項目を加減算することで税務上の所得(課税所得)を算出します。

  • 加算項目(会計では費用だが税務では損金にならないもの):
    • 交際費の損金不算入額
    • 引当金の損金不算入額
    • 法人税等の住民税・事業税の損金不算入額(法人税自体は損金になりません)
    • 減価償却費の損金算入限度超過額
    • 役員給与のうち損金不算入とされた部分
  • 減算項目(会計では収益だが税務では益金にならないもの):
    • 受取配当金益金不算入額
    • 圧縮記帳による積立金取り崩し益など(国庫補助金などで資産を取得した場合など)
    • 減価償却費の償却不足認容額(過去に償却限度額を下回った分を当期で消化する場合など)

この調整プロセスを通じて、企業の利益が適切に税法の規定に則って課税される「税務上の所得」に変換されます。この作業を正確に行うことが、適正な納税と、将来の税務調査リスクの低減に直結します。

4. 違いを理解するメリット:経営に活かす実践的アプローチ

会計と税務の具体的な違いを理解することは、単なる知識としてだけでなく、中堅・中小企業の経営において様々な実践的なメリットをもたらします。ここでは、そのメリットを具体的に解説し、いかに経営に活かすべきかを紹介します。

4-1. ムダな税金を払わない!合法的な節税対策への応用

会計と税務の違いを把握することで、税法で認められた範囲での合法的な節税対策を効果的に実行できます。税務上のルールを知らないまま会計処理を進めると、不必要に税金を支払うことになりかねません。

具体例

①適切な減価償却方法の選択と特別償却の活用

資産の種類や企業の利益状況に応じて、税法上の選択肢の中から最適な減価償却方法を選ぶだけでなく、中小企業投資促進税制などの特別償却を積極的に活用することで、取得直後から多めに損金計上し、当面の税負担を軽減できます。これにより、資産購入のための資金を返済に充てるなど、キャッシュフローを改善することが可能です。また、特別償却の処理方法には「直接減額方式」と「準備金方式」の2種類があり、会計の減価償却費と税務の損金算入額との差異(ギャップ)を小さくしたい場合には、準備金方式の方が望ましいとされます。さらに、特別償却に加えて、一定の資本金以下の企業であれば、税額控除の選択も可能となっており、節税効果の幅が広がります。特別償却を選ぶか、それとも税額控除を活用するか、また、特別償却を選択する場合にどちらの処理方式を採用すべきかといった判断は、企業の利益水準や将来の利益見通し、会計方針などを総合的に考慮したうえで最適な選択を行うことが重要です。

②国庫補助金を受給した場合の圧縮記帳の適用

中小企業が国や地方公共団体などから補助金を受給して設備投資を行った場合、その補助金に対応する資産の取得価額について、税法上の「圧縮記帳」の適用が可能です。圧縮記帳には、「直接減額方式」と「積立金方式」の2種類があり、いずれも補助金の額だけ資産の取得価額を減額したり、損金算入したりすることで、その年度の課税所得を抑えることができます。たとえば、1,000万円の設備に対して500万円の補助金を受けた場合、圧縮記帳を行えば、補助金相当額を損金算入できるため、税務上の利益を実質的に500万円減らすことができます。会計では、補助金収益を計上することで一時的に利益が増えますが、税務では圧縮記帳により対応する損金処理が可能なため、会計と税務の間で利益にギャップが生じます。企業の資金調達コストや利益の見通し、補助金の性質に応じて、どちらの方式を選ぶべきかを慎重に判断することが重要です。適切な圧縮記帳の活用により、補助金の受給による突発的な課税負担を回避し、設備投資後のキャッシュフロー安定化を図る有効な節税手段となります。

③中小企業事業再編投資損失準備金制度の活用

中小企業者等が2027年3月31日までに経営力向上計画の認定を受け、その後に株式取得によるM&Aを実施した場合、取得価額(手数料を含む)の70%相当額を損失準備金として積み立て、当該事業年度において損金算入することが可能です(据置期間5年)。また、過去5年間にM&A実績がある場合には、特別事業再編計画の認定を受けることで、初回のM&Aにおいては株式取得価額の90%、2回目以降は100%までの金額を損金に算入でき、据置期間は10年と長期にわたって課税繰延効果を享受できます。この制度により、会計では株式取得を資産として計上しつつも、税務では大きな損金処理が認められるため、実質的に課税所得を圧縮し、当面の法人税負担を大幅に軽減できます。これにより、M&A後の資金繰り改善や再投資余力の確保が可能となるだけでなく、将来の税金支払いに備えた中長期のキャッシュフロー計画も立てやすくなります。ただし、制度の適用には計画認定の取得や要件確認などの事前準備が不可欠であり、会計と税務処理の差異にも注意を払った運用が求められます。

④グループ法人税制の活用

グループ通算制度やグループ法人税制を適切に理解し適用することで、グループ全体での税負担を最適化できます。これは特に複数の子会社を持つ中堅企業にとって有効な手段です。たとえば、孫会社の子会社化を目的として、100%出資の親子会社間で、配当を現物(孫会社株式など)で受け渡す場合、これが「適格現物分配」に該当すれば、親会社が受け取った現物配当は会計では収益として計上されますが、税務では益金に含まれず、課税されません。孫会社株式の現物配当という方法により、「親会社➡子会社➡孫会社」という垂直の支配関係を、「親会社➡子会社・子会社」という水平の支配関係に、無税で変化させることができ、経営戦略に沿ったグループ関係の整理に有効です。

⑤繰越欠損金の活用

中小企業が過去の赤字によって生じた欠損金(税務上の損失)については、一定の要件を満たすことで、翌事業年度以降の黒字(課税所得)と相殺することができる「繰越欠損金控除」の制度があります。中小法人等であれば、当期の所得金額の範囲内で最大100%まで繰越控除が可能であり、赤字を将来の黒字と相殺することで、実質的に法人税等の支払いを抑えることができます。たとえば、前期に2,000万円の赤字があり、当期に1,500万円の黒字が出た場合、その全額を繰越欠損金で相殺することで課税所得をゼロにし、法人税の負担を回避できます。会計では黒字により当期純利益が発生しますが、税務では繰越欠損金の控除により法人税が発生しないため、会計と税務の利益に差が生じます。このような場面では、税効果会計を適用し、繰越欠損金に対する繰延税金資産を計上することで、会計上の利益と法人税等との対応関係を適切に表現することが求められます。ただし、繰延税金資産の計上にあたっては、将来の課税所得によりその回収が見込まれるかどうかを厳密に判断する必要があります。継続的な赤字や、将来の黒字化の見通しが不透明な場合には、繰延税金資産の一部または全部について回収不能と判断して取り崩しを行う必要があります。逆に、合理的な事業計画や黒字転換の実績がある場合には、適切に繰延税金資産を計上し、今後の税負担軽減の効果を財務諸表上に反映させることが可能です。繰越欠損金の活用は、過去の損失を将来の利益に結び付ける税務戦略であると同時に、税効果会計上の重要な判断要素にもなります。税務上の手続きと会計上の見積もり・開示の双方を適切に行うことが、企業の財務の透明性と節税効果の最大化に繋がります。

税務の知識がなければこれらの節税策は検討すらできません。会計と税務の違いを理解することは、「知っているか知らないか」で税額が大きく変わるという現実を認識し、適切なアクションを取るための第一歩となるのです。

4-2. 資金繰り改善に直結!キャッシュフローを意識した会計・税務連携

会計上の利益が黒字でも、手元の現金が不足する「黒字倒産」は、中堅・中小企業にとって避けたい事態です。会計と税務の違いを理解することは、この資金繰りの改善にも大きく貢献します。

会計上の利益は、未回収の売掛金や棚卸資産の増加など、実際には現金収入を伴わない項目も含まれます。一方、税金は原則として現金で納付しなければなりません。このギャップを埋めるためには、税務上の所得だけでなく、キャッシュフローを意識した会計・税務の連携が不可欠です。

  • 税効果会計の理解: 税効果会計は、会計上の利益と税務上の所得のズレによって生じる税金の調整額を財務諸表に反映させる会計処理です。これにより、将来の税負担の増減を予測し、より実態に近い利益(税引後利益)を把握することができます。この知識は、将来の資金繰り計画を立てる上で非常に重要です。税効果会計を適用することで、将来のキャッシュフローに対する予測能力が向上すると考えられます。
  • 資金支出を伴う節税策の検討: 例えば、短期的に利益が出ている場合、設備投資を加速させることで減価償却費を増やし、課税所得を圧縮するなどの節税策が考えられます。この際、単に節税効果だけでなく、設備投資による将来のキャッシュアウトも同時に考慮する必要があります。
  • 税金の種類と納付時期の把握: 法人税、消費税、源泉所得税など、税金には様々な種類があり、それぞれ納付時期が異なります。特に、インボイス制度導入後の消費税の仕入税額控除の取り扱いなども複雑化しており、これらを事前に把握し、資金繰り計画に織り込むことで、突発的な資金不足を防ぐことができます。

会計と税務を別々に捉えるのではなく、「キャッシュフロー」という視点で統合的に管理することで、企業の財務的安定性を高め、経営の選択肢を広げることが可能になります。

4-3. 経営戦略の精度向上!正確な利益把握と予実管理

会計と税務の違いを理解することは、経営戦略の精度を飛躍的に向上させます。なぜなら、企業活動の成果を示す「利益」の捉え方がより多角的になり、意思決定に必要な情報が精緻化されるからです。

  • 正確な利益把握: 会計上の利益は、投資家や金融機関向けの報告に用いられる重要な指標ですが、それだけでは税務上の視点が欠けてしまいます。税務上の所得まで含めて理解することで、「実際に手元に残る利益(税引後利益)」や「将来の税負担を含めた実質的な利益」をより正確に把握できるようになります。これにより、例えば新規事業への投資判断や、人員増強の可否、M&A戦略の立案などにおいて、より現実的でリスクの少ないシミュレーションが可能になります。
  • 予実管理の強化: 予実管理(予算と実績の管理)は、企業の経営計画が順調に進んでいるかを確認し、必要に応じて軌道修正を行うための重要なプロセスです。会計と税務の差異を理解していれば、予算策定時により精度の高い税金予測を盛り込むことができ、実績との乖離が発生した場合も、その原因が会計処理のズレによるものか、税法上の影響によるものかを迅速に特定できます。例えば、売上が予算通りでも税金が想定より高くなった場合、損金算入できない交際費の計上が多かったなど、具体的な原因を特定し、次年度の予算や行動計画に反映させることが可能になります。
  • 経営指標の活用: 「自己資本比率」や「流動比率」といった経営指標は、企業の財務健全性を示す重要なデータです。これらの指標を分析する際、会計上の数字だけでなく、税務上の影響を考慮に入れることで、より本質的な企業の実力を測ることができます。特に、税効果会計を適用している財務諸表は、将来の税負担まで含んだ企業の純粋な価値を反映しているため、より客観的な経営判断に資します。

このように、会計と税務の違いを深く理解することは、経営者が数字を「読み解く力」を向上させ、より戦略的かつデータに基づいた経営を行うための強力な武器となります。

4-4. 税務調査・会計監査に動じない強い体制づくり

会計と税務のルールを正しく理解し、適切な処理を行っている企業は、税務調査や会計監査の際に、自信を持って対応することができます。これは、心理的な負担軽減だけでなく、追徴課税や加算税といった金銭的なリスクを回避する上で非常に重要です。

  • 税務調査への備え: 税務調査では、企業の会計処理が税法に準拠しているか、申告内容が正しいかなどが詳細にチェックされます。会計と税務の違いを理解していれば、例えば、
    • 税務上の損金不算入項目を事前に把握し、適切に調整していること
    • 減価償却費の計算方法が税法に則っていること
    • 交際費や役員報酬の計上が税法上の要件を満たしていること

    などを、論理的に説明し、必要な証拠書類を提示できます。 これにより、不必要な指摘を避け、調査をスムーズに進めることが可能になります。特に、中堅・中小企業では税務調査の頻度が高い傾向にあるため、事前の備えが極めて重要です。

  • 会計監査への対応: 上場企業や、特定の規模以上の企業には会計監査が義務付けられています。会計監査では、財務諸表が会計基準に準拠して作成されているか、適正な開示がなされているかなどが確認されます。税効果会計など、会計と税務の差異を調整する会計処理が適切に行われているかを監査法人から問われることもあります。日頃から会計と税務の違いを意識した適切な処理を行うことで、監査プロセスを円滑に進め、会計報告の信頼性を高めることができます。
  • 内部統制の強化: 会計と税務の知識が社内で共有され、適切な内部統制が構築されていれば、経理処理のミスや不正を未然に防ぐことができます。これにより、後から大きな問題に発展するリスクを低減し、企業全体のガバナンスを強化できます。例えば、定期的なチェック体制の構築や、経理担当者への研修などが有効です。

税務調査や会計監査は、企業の信頼性を測る場でもあります。会計と税務の違いを理解し、盤石な体制を構築することは、外部からの信頼獲得にも繋がるのです。

5. まとめ:会計と税務の違いを力に変え、会社の未来を拓く

中堅・中小企業の経営において、会計と税務は避けて通れない重要な要素です。この二つの概念は密接に関連しているものの、それぞれ異なる目的と役割を持ち、具体的な処理や評価方法にも違いがあります。このコラムを通じて、その決定的な違いと、それを理解することの重要性、そして具体的なメリットを深くご理解いただけたことと思います。

5-1. 違いを理解することは「経営の視点」を持つこと

会計と税務の違いを理解することは、単に複雑なルールを覚えることではありません。それは、「経営の視点」を持つことに他なりません。 財務会計が企業の客観的な成績表であるのに対し、税務会計は納税という義務を果たすための調整プロセスです。この両者を区別し、それぞれの役割を認識することで、経営者はより多角的に自社の状況を分析し、最適な経営判断を下せるようになります。

  • 会計上の利益がそのまま手元に残るわけではない現実
  • 税務上の制約が経営判断に与える影響
  • 合法的な節税策が利益に与えるインパクト

これらを総合的に捉えることで、単なる「帳簿付け」や「税金計算」に留まらない、戦略的な経営管理が可能になります。

5-2. 専門家との連携で盤石な経営基盤を

しかし、会計と税務の複雑なルールを全て自社で完璧に把握し、最新の法改正にも対応し続けることは、多くの企業にとって大きな負担となるでしょう。特に、中小企業では専門知識を持つ人材が不足しているケースも少なくありません。

そこで重要となるのが、税務や会計の専門家である税理士、そして中小企業診断士との連携です。テントゥーワン税理士法人では、創業から40年の業歴を持ち、約50名のスタッフが在籍しております。会計の専門知識だけでなく、中小企業診断士の資格を持つ専門家が、貴社の経営状況を深く理解し、以下の点で強力にサポートします。

  • 最新の税法に基づいた適正な税務申告支援: 法改正に即した正確な税額計算と申告書作成をサポートし、税務調査リスクを低減します。多くの税理士が、法改正に即した最新の知識で対応しており、正確な処理が期待できます。
  • 会計データに基づいた経営コンサルティング: 財務諸表の分析を通じて、貴社の強みや課題を明確にし、利益最大化のための具体的な経営戦略を立案します。
  • 合法的な節税対策の提案: 貴社の状況に合わせた最適な節税策を提案し、余計な税負担を軽減します。中小企業倒産防止共済制度や特別償却など、貴社が利用できる制度を具体的にアドバイスできます。
  • 資金繰り改善のアドバイス: キャッシュフロー計算書の分析や将来予測に基づき、資金繰りの安定化を支援します。
  • 税務調査対応のサポート: 万が一の税務調査の際も、専門家として貴社を全面的にサポートし、適切な対応を支援します。
  • 事業承継やM&Aにおける税務・会計戦略: 長期的な視点での事業展開を見据え、税務・会計の専門知識を活かした戦略策定を支援します。

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